2006年03月07日

星屋心一の作品解説・植林二本目篇
 その9 「盲点という物語」

――王妃:「姫がいないの。あなた、何かご存知?」
  王子:「珍しいことなんですか?」
  王妃:「こういうことは……。」

    王子、ほんの少し考えるが、すぐに走り出す。

  隊長:「どちらへ!?」
  王子:「何であなたが分からないんですかっ!」

    王子、行ってしまう。

  王:「彼には分かるのか? 外の人間だぞ。」(十四場)


 かくして物語は再開する。姫は一人で「魔女の森」に向かっている。そこは「入ったら最後、出てくることができない」(十一場)と伝えられる場所だ。姫は国にかけられた「呪い」を解くために――自身の「問題をきちんと解決」するために――行動を決意する。上の引用の、残された者たちの会話を見てみよう。「外の人間」である王子は姫の居場所にすぐに気づいた。しかし、他の人間はそうではない。王も王妃も、長年側に仕える隊長も、姫がどこへ向かったのかまったく見当もつかずに右往左往している。

 これは奇妙な事態だ。「外の人間」である王子が姫の居場所を分かることは奇妙ではない。先夜に彼は、姫に「好き」だという気持ちを伝えており、彼女の望む「強さの証明」として自身が森に入ることを口にしている(十二場)。だから彼女の居場所に気づくことは自然なのだ。ここで奇妙なのは、彼女をよく知る「中の人間」たちが分からないことの方である。この引用の直後に隊長は王の発言にひっかかったようなそぶりを見せる。この時、隊長だけは、「中の人間」である自分たちの奇妙さに違和感を感じたようである。

 この「魔女の森」こそ彼らの盲点である。それは「入ったら最後、出てくることができない」という伝説が、いつしか「入ることが考えられない場所」となっているということだ。タブー視されているという以上に、考えるべきことが考えられていない。だからといって私は彼らを無知や愚かだとは考えない。というより、彼らは非力であり不誠実だったのである。愛する姫のために、「中の人間」である彼らは、可能性をくまなく考えるという思考を行わなかった。例えば、右往左往した後に、「彼には分かるのか?」と単に疑問を口にしてしまう王は、姫を分かろうとする思考の努力を放棄してしまっているのだ。だから王は姫の捜索に対して非力であるばかりか、不誠実なのである。

 引用の場面は「中の人間」たちの隠れた弱さと悪を表現する点において、『たからもの』の中で重要な場面である。盲点という物語は、真新しさと真逆であるところの人間の業を一瞬だけ、しかし入念に照らし出す。この業こそが「呪い」を生み出した母胎である可能性はあるだろう。そしてそれは、単なる「呪い」以上におぞましいものであるかもしれない。【次を読む】
posted by 東京青松 at 00:00| 作品解説・植林二本目篇