2006年12月01日

星屋心一の作品解説・植林三本目篇
 二章 第二部 強固な信頼を生むものとは何か(5)世界観というリアル・2

――水元:あ、すみません。僕たち、こう見えても国家公務員なんですよ。
  田中:えっ! す、凄いですねえ。
  水元:いやいや、全然。国家公務員といっても、一般じゃあ通らない肩書きなんで。(二場)


 幽霊を成仏させる「国家公務員」という仕事。この仕事に現実的なリアルがないことは断言できる。計上された国家予算の中から組織機構が編成され、幽霊のために秘密裏に活動が行われるということはありえない。

 さらに、『あなたへ』という作品は、この「国家公務員」という仕事のリアルさを細部の設定によって補強しようとしない。「幽霊」には詳細な設定が語られており、それが「幽霊」の存在にリアリティを補強している。しかし、「国家公務員」は、彼らの所属する組織機構についての情報を不足させている。

 このような「国家公務」を実感する心を、私たちは普通持たない。このとき、「国家公務員」のリアリティは、その成員と名乗る寺崎守と水元翼の自己申告に危うく支えられることになる。彼らが互いに対する態度の「同僚らしさ」によって、彼らの意識や意図のリアルは保障されるだろう。しかしそれらは、ついに組織機構の成立条件とならない。

 この解釈の中で、「国家公務員」は作品の弱点のように映る。成立条件を持たないものが成立し、作品に組み込まれているということ。この非現実さは幽霊の物語に必要な「作品の都合」であると見える。物語を円滑に進めるための装置が露呈し、それにかりそめの設定が与えられているかのようだ。

「作品の都合」をただ受け入れる寛容さの中で、物語の豊かさを感受するやり方もある。しかし、そのように作品を捉えることは、日常のリアルを描いた『あなたへ』の可能性を殺ぐことになるだろう。「国家公務員」である寺崎守、水元翼や彼らの「国家公務」というものを感じ取ってみよう。その中で現れるのは、職業観というリアルである。【次を読む】
posted by 東京青松 at 00:00| 作品解説・植林三本目篇