2006年12月04日

星屋心一の作品解説・植林三本目篇
 二章 第二部 強固な信頼を生むものとは何か(5)世界観というリアル・5

――水元:寺崎さん、僕、才能あります?
  寺崎:なんだよそれ。
  水元:いや、どうなのかなと思って。
  寺崎:ふっ。あるよ。お前なりにさ。
  水元:ええ? それじゃ意味ないじゃないですか。
  寺崎:バカ、あるよ。でなきゃ、俺が二人いりゃいいってことになるじゃねえか。(十五場)


 この会話の中に一つの前提がある。それは寺崎守の「才能」である。水元翼が「才能」の判定を請うとき、寺崎がそれに答えるとき、二人が前提としているのは、寺崎が「国家公務」という職業に就いている確かな意味である。

 ここに第三者が居合わせたならば、寺崎の「俺が二人いりゃいい」という部分は、自信過剰な響きを生むだろう。しかし、二人だけの会話の中にその響きはない。水元が言葉の中に込めた畏敬を、寺崎がくだけた返答の中で受け取るという言外の共有がある。

 水元は寺崎の「助手」である。しかし、「助手」という立場は寺崎への尊敬にはつながらない。「僕がうまく報告してるから、寺崎さんやってけてるんじゃないですか」(二場)と寺崎をあてこする水元にその意識は薄い。だからそれはまた、立場の違いの一要因となるだろう寺崎と水元の「能力差」でもない。

 つまり水元の畏敬は、田中博司の一件によって生じている。水元は「うまく報告」する必要があるような寺崎の仕事によってこそ、田中博司の件が解決に導かれたのだと感じている。この水元の印象を元にして、寺崎の仕事を捉えてみよう。逆に言えば、その印象を元にしない限り、寺崎の仕事の本領は私たちの眼には見えてこないだろう。

 その論は次回に譲り、以下に寺崎の本領が現れていると思う箇所を引用する。


――清美:……あの、これを書いてくれた方、近くにいらっしゃいますか?
  水元:えっ?
  清美:今、この近くに?
  水元:ああ、いえ。
  清美:そう。
  寺崎:あの、なぜです?
  清美:いえ、そんな気がしただけで。
  寺崎:そうですか。(十三場)


――寺崎:どうだい、すっきりしたかい?
  田中:ええ、気持ちが軽くなりました。
  寺崎:……そうみたいだね。
  水元:あっ。
  田中:え? あっ!

        田中の魂が地上から解き放たれるようだ。

  田中:寺崎さん、水元さん、私……。
  寺崎:うん、やっぱりこれで良かったみたいだな。(十三場)【次を読む】
posted by 東京青松 at 00:00| 作品解説・植林三本目篇