2007年07月19日

星屋心一の作品解説・植林四本目篇
 二章 心の起点の時間とともに(3)孤独という時間

――父:……一光。わしはお前を育てた。
  一光:ええ、もちろんです。感謝しております。
  父:育てたが、それだけだ。育てただけなのだ。
  一光:えっ?
  父:お前は、わしの妻から生まれたのではない。
  一光:!
  父:そもそもわしは、所帯をもったことがないのだ。(一場)


 引用のこのとき、過去という起源がフィクションに導入されている。過去という起源は「真実の時間」となる。その時間が二人の時間を変化に追いやるだろう。一光はひどく驚いている。その驚きが、彼を育むと同時に彼自身が育んできた「心の起点の時間」の存在を弱めているだろう。

 この場面にはもう一つの時間がある。それは「所帯をもったことがない」という父の時間である。「妻」を持つことなく一光を「育てただけ」という父が過ごした時間が、「真実の時間」や「心の起点の時間」とともに引用の場面に圧縮されている。

 ところで、父の語る言葉から、彼が二つの嘘をついていたと分かる。一光が実子であること。そして、妻がいたことである。つまり、父は「真実の時間」を告げると同時に、子も妻もない独身男に変じるのである。

 ここに父の孤独がある。独身男だからではない。子も妻も持つ人間であると偽ることでそう印象づけられるのである。独身男がいつからか妻子持である嘘を生きること。父の個である孤独が感じられる。

 この「孤独の時間」に思いをはせよう。きっと、後に一光がそうしたようにである。それは父の孤独のみを伝えるものではない。にせものの時間を選び、幼い一光に向かった決断の意味を想像させてくれる。「真実の時間」によって、全てが覆われるものでないことが了解されるだろう。【次を読む】
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