2005年08月08日

星屋心一の『東京青松の道/客席から』
 その14 「『絵美香』論6・終わりの冬」

  タマキ:「ショウ!」
  ショウ:「ん?」
  タマキ:「雪!」

 この物語最後の台詞の後には、「タマキ、そう言って行ってしまう。」というト書きがある。ショウは一人になる。いや、ショウは一人ではない。ショウはすでにタマキと添い遂げているのだ。そのぬくもりの中で見る雪には、別の思いが重なる。

  ショウ:「雪は一緒に見られるよ」

 これはかってエミカに対して言った言葉だ。消えゆく運命にあった一人の「女の子」。その彼女のための精一杯のやさしさが、いや彼女さえもが、まるでなかったことのように時は過ぎている。

 この雪はだから、いくつもの思いと意味を私たちに運んでいる。それは、エミカの愛を届ける。彼女へのショウの愛を届ける。そして、雪のひとひらが手の中に収まるとともに消えてしまうように、エミカは消えてしまった。

 この物語には後日談がある。ユリの「人生の春」の訪れがそれである。だからこそこの冬が、二度と繰り返されることがないと私たちにはっきりと伝わるのだ。「人生の春」のエピソードは『延長』冒頭で語られている。

 それが明かされるとき、観客は、自分がその冬を過ぎてしまうのだと気づくだろう。そして、『延長/絵美香』の一年を、愛惜をもって振り返るはずだ。私も愛惜を抱きつつ、この一年の物語をたどり直すことにしよう。【次を読む】
posted by 東京青松 at 00:00| 作品解説・植林一本目篇