2006年03月09日

星屋心一の作品解説・植林二本目篇
 その11 「死という物語」

 前回の補足にあたる内容を書く。王子は魔女を攻撃しない。「魔女とすっかり話し込んでいた様子。」(十九場)とあるように、王子は魔女と対話することを選んだ。ここで王子は「呪い」や「魔女」の迫害の真相を知らされたようだ。しかし、この直後王子は絶命してしまう。魔女の手から受け取った毒杯をあおることによって。

 この死という物語は、『たからもの』の中に突然現れる。その突然さは、私にとって滑稽ささえ感じるほどであった。

――魔女:「わたしはもう……。これで(持っていたコップを見せて)お……。」
  王子:「ああ、ありがとう!」

    王子、魔女からコップを取り、一気に飲み干す。(十九場)

 このコップの中身が毒である。王子が魔女の「城」に着く瞬間、魔女は毒をあおろうとしていたのである。しかし、その毒を王子は誤って飲んでしまったのだ。このとき、魔女は「これで終わりにしようとしていた」と言おうとしたのだろう。コップを示して、自殺しようとした事実を振り返り、それを告白したのだ。ここには死のうとした事実を乗り越えた魔女の姿がある。その生きる希望を示す行動を、王子は「飲み物を振る舞ってくれた」と誤解したのである。何という悲劇だろうか。

 この突然の死には、その必然を納得させる要素は全くない。「非業の死」という言葉そのままに、死すべき業を持たずに王子は死んでいく。この死に私が感じる滑稽さとは、死を前に、人間の生がただ無力であることによって感じるものである。

『たからもの』は童話の原典のような突然の死を描くことで、人間の生の無力さを教えている。しかし、どんなに無力であっても、人は死を前に何かを願わずにはいられない。私たちの誰もが持つこの願いが、一つの行為に転じること。それが『たからもの』の物語を生み出す端緒となるだろう。それは死への無力さを忘却させるような絵空事(ファンタジー)ではない。真新しいファンタジーがそこにあるのだ。【次を読む】
posted by 東京青松 at 00:00| 作品解説・植林二本目篇