2006年03月12日

星屋心一の作品解説・植林二本目篇
 その14 「物語から心へ」

――姫:「何で、こんなに悲しいの? ねえ? どうして……?」
  隊長:「くっ……。」
  姫:「もっと話したいの、あなたと。ほんとよ。ねえ。」

    隊長、静かに出て行く。
    その間際に。

  姫:「わあああああああああああああああああああああっ。」(十九場)


 引用は、王子が亡くなった直後の場面である。姫の慟哭によってこの十九場は閉じる。この死の悲しさは誰もが知るところのものだろう。姫は初め、その感情の大きさにとまどう。次いで、まだ王子と語らう現実が続くようにふるまおうとしている。最後に死という現実が、姫の心身を圧していく。

 この時、私たちはもう物語の外にはいない。『たからもの』の中の死という現実が、私たちを物語の中に引き寄せている。だから私たちに見えるのは、物語の中に生きる人々であり、人々の心である。舞台から、私たちは少し離れた場所にいて「息をひそめて」いるのである。息をひそめながら、姫の慟哭を聞いている。

 その慟哭を聞きながら、私たちも「何で、こんなに悲しいの」かを自らに問うべきかもしれない。姫は王子を愛していた。王子とともに生きる現実があることを信じていた。そして、その心を理解する私たちも、彼らとともに生き、同じ現実に立っているのである。その場所から、私は彼らの心を語るだろう。【次を読む】
posted by 東京青松 at 00:00| 作品解説・植林二本目篇