2006年03月13日

星屋心一の作品解説・植林二本目篇
 その15 「離れてある心」

――小鬼:「姫は?」
  隊長:「泣いてる。」
  小鬼:「そうか。」
  隊長:「俺が、全て気づいていれば……。」
  小鬼:「よせって。全てなんて。冗談じゃねえ。」(二十場)


「魔女の家から少し離れたところ」(二十場・冒頭ト書き)での小鬼と隊長の対話である。魔女の家では、姫は王子の死に直面して泣き続けている。つまり、隊長と小鬼は死の悲劇から「少し離れた」場所にいて、姫の悲しみに思いを馳せている。

「全て」という言葉は、誰かを救おうとする者だけが口に出すものだ。自分を救おうとするならば、「全て」など必要ない。姫の心に思いを馳せ、姫を守ろうとする時、姫の遭遇する「全て」の事象を察知しなければならないのである。

 つまり「全能」を求めることは自然でさえあるのだ。誰かの心をあますところなく救いたいと望むとき、人は「全能」を求め、「全能」でない自分を罰していく。そうして、自責の袋小路に入り込んでいく。だから小鬼は、「よせ」とその思いを断ち切ろうとしている。

 心を救おうとする心。隊長が姫を、小鬼が隊長の心を救おうとしたことは間違いない。離れてある心に手を差しのべ、それを救おうとするとき、誰の心にも等しく無力を残していく。そして、この心の無力さから、『たからもの』の冒険が始まる。


――隊長:「願いを。」
  小鬼:「ん?」
  隊長:「願いを叶えてくれ。」(同上)【次を読む】
posted by 東京青松 at 00:00| 作品解説・植林二本目篇