2006年03月20日

星屋心一の作品解説・植林二本目篇
 その22 「見えない世界」

  ――照明。先ほど隊長がいた辺り。
    姫と王子が歩いてくる。
    ふと、姫が立ち止まる。

  王子:「ん? どうしたの?」
  姫:「石。」
  王子:「うん。」
  姫:「これ、宝物にする。」(二十二場)


『たからもの』の最終場面には、多数の世界の存在を感じ取ることができる。

 第一の世界は、いま私たちの眼前にある「姫と王子が歩いて」いる世界である。ここでは、恋する二人に幸福な生活が約束されているように見える。第二の世界は「隊長がいた」世界である。第一の世界からはもう、隊長の記憶が消えている。王子の命と世界の交換として、隊長の全ては失われている。第三の世界は、「小鬼」が存在する世界である。「先ほど隊長がいた辺り」には、もちろん小鬼もいた。この小鬼は既に私たちには見えない。いまこの世界は、人智を超えた世界の存在がそうであるように「見えざるもの」となっている。きっとその場所から、小鬼は「宝物」の奇跡を見ているだろう。第四の世界は、姫の心の世界である。「石」を拾い上げる姫の心が何を感じたか、私たちには謎である。第一の世界からは「隊長」の記憶が消えているはずなのに、姫はかつて隊長であった「石」を見止め、それを「宝物」と呼ぶことができる。

 いま世界は、一つではない。多くの見えない世界がこの場面に召喚されている。私たちはこの場面から、見えない世界にも無数の種類が存在することを学ぶだろう。かつて生きた人の持つ世界。小鬼が表象する、人智を超えた世界。そして、目の前の人の心が抱く世界。それらの世界を感じ取ろう。そして、心に一つの問いかけをしてみよう。その答えによって、引用の場面がもたらす「宝物」の謎は消えるだろう。それは以下のようなものである。

 見えない世界に対して、私たちは真実何ができるのか?【次を読む】
posted by 東京青松 at 00:00| 作品解説・植林二本目篇