2006年11月30日

星屋心一の作品解説・植林三本目篇
 二章 第二部 強固な信頼を生むものとは何か(5)世界観というリアル・1

 ここまで、幽霊をめぐっていくつかのリアルを取りあげた。一口に言って、それらは異質なレベルのリアルである。しかし、同時に一つでもある。個人にとって、特にフィクションに触れる個人にとって、リアルは一つの世界観としてまとめられるからである。局所から世界へと、リアルは拡張され世界をかたどる。

『あなたへ』の幽霊をめぐるリアルがどのような世界観を形づくるのか。それは見過ごされがちな人間の心を主題としたものとなる。これを想像するとき、非現実なはずの幽霊は世界を構成する必要なピースになるだろう。その傍証をここでは略す。いま私が強調したいのは、『あなたへ』という物語の世界観の中に含まれる特徴的なかたちである。

 例えば「二章 第一部 強固な信頼とは何か(4)信頼によって生まれるもの」「二章 第二部 強固な信頼を生むものとは何か(4)演劇というリアル」を参照してほしい。両者にあるのは、心の同期=他人の心を事実として捉えるリアルであるとまとめられる。

『あなたへ』の観客は、この両者のリアルに順に触れていくことになる。まず演劇行為の中にある「他人の心を事実と捉えること」を体感する。次に同じ現象を登場人物がリアルとして生きる場面を目撃する。さらに物語が日常生活を描くため、そのリアルが観客の現実に起き得ることを喚起させられる。

 つまり、『あなたへ』の世界観の中には、「演劇形式」「物語内容」「現実世界」三者に同形のリアルが描かれている。この相似形は暗号ではなく必然である。『あなたへ』は、「他人の心を事実として捉える」という一事を、「いまここ」と世界に通底する中心として扱っているのである。

『あなたへ』の世界観は、波紋のように広がる同心円のリアルによって構成されている。「他人の心を事実と捉える」という中心を共有するやり方で、外へ外へと向かう実感の広がりによって世界観が構成されているのである。中心から濃やかに広がる世界観を持つことは幸福である。自分と世界との緊密なつながりを強く実感できるからである。

 そして、「国家公務員」という「非現実さ」も確かにこの中心を共有している。しかしそれを「幽霊」と同じ円に含めるべきでない。本作で物語られたどんな事象よりも外側に位置づけるべきである。そのように「国家公務員」を世界観としてのリアルと捉えるとき、『あなたへ』のほとんどの観客にとって意外なメッセージを抽き出すことができるだろう。私は次回から、この最も外側の円について語ることにしよう。【次を読む】
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