2007年07月21日

星屋心一の作品解説・植林四本目篇
 二章 心の起点の時間とともに(5)約束が共有された時間

――サル:うるせえんだよ、お前は! 畜生、俺は女は苦手だし、扱いも下手だがよ。あんたに寂しい思いはさせねえよ。
  キジ:なんだい、いい奴じゃないか。ねえ、いっちゃん。
  一光・イヌ:いっちゃん!(六場)


 ここに一つの約束がある。サルは言う。「あんたに寂しい思いはさせねえ」と。その言葉はキジの心を明るくする。さらには、場自体をハプニングのような明るさをもたらしている。このとき、集団の中に「寂しい思い」はない。つまり、一つの約束が集団のありようを変えてしまっている。

 しかし、約束はいつまで効力を持つのだろうか。サルは確かに「いつまでも」という意味を込めている。しかし、彼らは旅の途上にあるのだ。その旅の中で、彼らの運命がどのように変転していくかは不明である。だから、約束は「いつのまにか」反故にされてしまうかもしれない。

 約束は時間を支配しない。約束が示すのは、時間の運命を越えたいという希望である。だから、約束というものは時間に対する私たちの無力さを印象づける。この無力さはいじましい。だが、無力なだけではない。約束はフィクションの中に、彼らが生きるべき時間の理想を導入しているのである。

 約束は心が望んだ時間のありかたを示す。「あんたに寂しい思いはさせねえ」とサルが言うとき、心が望んだ一つの時間を明らかにしているのだ。彼らが一生ともにあること。サルの言葉は心が望んだ理想の時間を率直に告げている。

 そして、集団の中にこの約束がとけこむとき、サルの理想は全員の理想となるだろう。フィクションの一過程で、新たな理想の時間が生み出されている。その時間を彼らが生きるかは不明だ。しかし、共有された時間が彼らの心の起点となりうる。その「心の起点の時間」によって、彼らは未来と対していくことになるだろう。【次を読む】
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